犬猫小町INUNEKO KOMACHI
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犬・猫の後ろ足が弱ってきたら

家でできることと、受診の目安

# 犬・猫の後ろ足が弱ってきたら 立ち上がるのに時間がかかる、フローリングで滑る、散歩の後半で後ろ足がもつれる。年のせいだと思っていたことの中に、受診したほうがよいものが混じっていることがあります。見分け方と、今日から家でできることを順に書きます。 ## 先に、見分けたいこと AAHAのシニアケアガイドラインは、こんな一文から始まります。「獣医療にたずさわる者は『**old age is not a disease(老齢は病気ではない)**』と認識するよう教えられている。しかし飼い主は、高齢の犬猫の身体・精神・行動の衰えを、単に歳のせいで避けられないものと受け取ってしまうことがある」(2023年・J Am Anim Hosp Assoc 59(1):1-21)。 つまり見分けたいのは、老化そのものではなく、**「年のせい」で片づけると見逃してしまうもの**のほうです。ゆっくり進む変化と、急に起きた変化とでは、対応が違います。 ### 時間をおかずに動いてほしいとき 次のいずれかに当てはまるときは、時間をおかずに動いてください。ここだけは急ぎます。 | いま起きていること | 目安 | 理由 |

|---|---|---| | 急に後ろ足が立たなくなった。強く痛がる、背中を触ると鳴く | 時間帯を問わず受診(夜間・休日は事前に電話) | 脊髄を圧迫する病気など、時間が結果を左右するものがあります | | 強くかばって、片足をまったく地面につけない | 時間帯を問わず受診 | 強く足を引きずる歩き方は、様子を見る範囲には入りません | | 猫が突然、後ろ足が動かなくなって強く痛がる | 救急 | 猫では心臓の病気に伴う血栓が原因のことがあり、緊急にあたります | | 後ろ足の異変とあわせて、おしっこが出ていない・出せない | 救急 | 排尿できない状態は、それだけで緊急です | | 片方の足だけがおかしい。時々足を上げる、引きずる歩き方が続く | その日のうちに | 左右差は、加齢による全体的な衰えとは考え方が変わります | | 急に段差を嫌がるようになった、階段を渋るようになった | その日のうちに | 痛みは鳴き声よりも先に、行動の変化として出ることがあります | 軽くふらついたけれど休ませたら普段どおり歩いている、という場合は、1〜2日を上限に様子を見る範囲とされています。ただし、シニアや持病のある子は変化が速いことがあるため、この上限より早めに動いてください。 繰り返す、悪化する、左右差が出てきたときも同じです。 「痛がっていないから大丈夫」とは限りません。痛みを訴えられない代わりに、段差を避ける・抱かれるのを嫌がる・寝る場所を変えるといった形で出ることがあります。 そして、痛がっている様子があっても、人用の痛み止めを与えないでください。 人の薬には犬猫で中毒を起こすものがあり、診てもらうときの判断も難しくします。痛みへの対応は、受診してから相談してください。 急に立てなくなって痛がっているときは、立たせる練習をさせないでください。 できるだけ動かさず、毛布や箱で体を支えて、静かに病院へ運びます。 ### ゆっくり進んでいる場合も、一度は相談を 数週間から数か月かけて、痛がる様子はないのに後ろ足だけが弱っていく。この形にも、名前のついた病気があります。たとえば変性性脊髄症は、痛みを伴わずにゆっくり進み、足先を引きずる、爪が擦り減る、足の甲を地面につけて歩く(ナックリング)といった特徴が知られています。一方で、急に立てなくなり強く痛がる椎間板ヘルニアのような病気もあります。 この記事では、どちらなのかを決めることはできません。 区別には検査が必要で、診断は獣医師の仕事です(獣医師法第17条は、獣医師でなければ犬猫等の診療を業務としてはならないと定めています)。ここでお伝えできるのは、「年のせい」で受診を先送りにしないでほしい、ということだけです。 シニア以降は、症状がなくても半年ごとの健康診断が推奨されています。犬は体格によってシニアに入る年齢が違い、目安として小型犬は10歳ごろから、中型犬は8〜9歳ごろから、大型犬は6〜7歳ごろからとされます(いずれも一般的な目安です)。「まだ若いはず」の年齢でも、体格によっては当てはまります。 ### 受診の前に、記録しておくと早いこと いつから、どちらの足か、どんなときに出るか(起き上がり・段差・散歩の後半)。あわせて、食欲や排泄に変化がないかも書き留めておくと相談しやすくなります。それから、歩いているところを10秒ほど動画に撮っておくと、診察がずいぶん早くなります。診察室では緊張して、普段どおりに歩かないことがあります。 ## 家でできること 道具を買う前にできることから書きます。買い物は最後で間に合います。 ### 床を、全部でなくていいので変える 環境省のパンフレットは、高齢の犬猫が過ごしやすい部屋づくりとして、床材について「マットなどを敷き、滑りにくい床に。爪が引っかかるような絨毯はやめる」と記しています。滑らなければ何でもいい、ではないところが要点です。毛足の長いラグは、爪が引っかかって別の転び方をします。 そして、家じゅうに敷く必要はありません。 よく通る線だけで足ります。寝床から水飲み場へ、水飲み場からトイレへ、玄関まで。この線を目で追って、そこだけ敷く。これだけで、立ち上がりの失敗が減ることがあります。 滑る床の上で踏ん張れないと、後ろ足が横に開きます。開いた姿勢から立ち上がるのは、それだけで力が要ります。滑らない床は、道具の中でいちばん地味で、いちばん効く工夫です。 ### 段差を、なくすか、行けなくする 同じパンフレットは、老化のサインとして「段差でつまずく」「高いところに飛び上がれなくなる」を挙げ、安全対策として「階段や台所は柵で入れなくしたり、高いキャットタワーは低くするなどして事故を防ぐ」と記しています。 飛び降りる場面を減らしたいときは、ソファやベッドに自分で上がれているうちから、降りるところだけ抱き上げる、という形でも構いません。上がってほしくない場所は、叱るのではなく物理的に上がれなくするほうが、お互いに消耗しません。 猫の場合は、上下運動をやめさせるのではなく、一段の高さを下げる発想が使えます。キャットタワーを低いものに替える、途中に台をひとつ足して二段階にする。行き先を奪わずに、段差だけ小さくします。 トイレも同じで、パンフレットは「入り口を浅くして段差をなくしたり、スロープを付けるなど入りやすく」と記しています。トイレの縁をまたげなくなったことが、失敗の理由だった、ということがあります。 ### 立ち上がりを手伝うときの、手の置き方 支え方は、その子の痛む場所や体格によって変わります。ですので、原則だけを書きます(前述のとおり、急に立てなくなった・強く痛がるときは、ここに書く介助を試さずに受診してください)。 急がないこと。 声をかけて、その子が立とうと構えてから手を添えます。寝ているところにいきなり手を入れると、驚いて力が入り、かえって滑ります。 引っ張り上げないこと。 持ち上げるのではなく、その子が伸ばそうとしている力に添えるのが目的です。首輪やハーネスを上に引くと、前足に体重が乗りすぎます。 尻尾やお腹の皮膚をつかまないこと。 尻尾を持ち上げる介助を見かけますが、腰から尻尾にかけては痛みのある場所と重なりやすい部位です。支えるなら、下腹ではなく体の幅の広いところで、面で支えるほうが痛くありません。 背骨をひねらせないこと。 片側だけを引き上げると体が回ります。左右均等に、まっすぐ持ち上がるようにします。 嫌がったら、そこでやめること。 抵抗は、痛みの合図のことがあります。 そして、どこを支えればいいかは、一度かかりつけで実際に見てもらうのがいちばん確実です。 診察のついでに「立たせ方を見てください」と伝えれば、その子の状態に合わせて教えてもらえます。介助する側の腰も守ってください。膝を曲げて、自分の体に近いところで支えます。 ### 散歩は、やめずに、距離ではなく頻度に変える 環境省のパンフレットも、高齢期のケアとして「適度な運動も忘れずに」と記しています。どのくらい歩けるかはその子の状態によって違うので、量そのものより、続けられる形に変えることを考えます。 変えるのは中身です。1回30分を、10分を2〜3回に。行きは元気でも、帰り道で足が出なくなることがあるので、引き返す地点を早めに決めておきます。往復で考えず、片道で考えるということです。 疲れさせないことが目的なので、その日の様子で短く切り上げて構いません。歩けない日は、抱っこやカートで外に出るだけでも構いません。外の匂いを嗅ぐ時間は、歩数とは別のものです。 ただし、進行性の病気があると分かっている場合や、痛みがある場合は、運動の量と内容を獣医師と決めてください。 病気によって、動かしたほうがよい範囲が変わります。 ### 爪と、足裏の毛 パンフレットは手入れの項に「定期的な爪切りとブラッシング。マッサージも。」と記しています。地味ですが、後ろ足が弱っている子には直接効きます。 爪が伸びていると、肉球より先に爪が床に当たり、踏ん張りにくくなることがあります。また、足先を引きずる子は爪が片側だけ擦り減るので、擦り減り方の左右差は、歩き方が変わってきたサインとして見ておく価値があります。足の甲や爪が擦れて傷ができている、出血しているときは受診してください。 肉球のあいだの毛が伸びていると、その毛の上に乗って滑ります。ここを短く保つだけで、床の滑りやすさは変わります。 爪切りが怖い、黒い爪で血管が見えない、という場合は、無理をせず動物病院やトリミングサロンにお願いしてください。深爪をすると、その後しばらく爪切りを嫌がるようになることがあります。少しずつ、回数を多く、が続けやすいやり方です。 ## 道具を使うなら ここからは買い物の話ですが、急いで揃える必要はありません。 床に一枚敷いてから考えても遅くありません。 このサイトでは商品名を挙げていません。体格・体型・進み方がその子ごとに違い、同じ商品が別の子には合わないためです(→ 編集方針と出典の扱い)。代わりに、選ぶときに見るところだけを書きます。 ### 共通する、いちばん大事なこと 体に合っていない道具は、かえって体を痛めることがあります。 幅の狭い帯が脇や内股に食い込む、大きすぎて滑り落ちる、締めすぎて呼吸が浅くなる。どれも起こりえます。 ですので、買う前に採寸してください。 体重だけで選ばず、胴回り、胸の深さ、後ろ足の付け根から地面までの高さを測ります。そして、試着や返品ができるかどうかを先に確認してください。ここだけは、買う前に効いてきます。 いくつも同時に揃えず、ひとつ試して、足りないものを足していくほうが結局は無駄が出ません。 ### 介助ハーネス・スリングの、3つの型 大きく3種類あり、どれが合うかはその子の段階で変わります。 後ろ足だけを持ち上げる型(スリング・後肢用)は、後ろ足だけが弱い段階向けです。装着が早く、散歩の途中で足がもつれたときに支えるといった使い方に向きます。見るところは帯の幅です。細い帯は、体重が集中して食い込みます。 胴体全体を支える型(フルボディ)は、前足にも力が入りにくくなってきた段階や、立ち上がりから移動まで通して介助したい場合に使われます。着けたままにしておけるかどうか(蒸れ、脇の擦れ)が分かれ目になります。 前側を支える型は、後ろ足が弱った分の体重が前足に寄ることへの対応です。後ろだけを支えれば済む、とは限らないということです。 つまり、ひとつで全部を賄える道具はありません。 今の段階に合うものを選び、変わったら見直す、という前提で考えるほうが失敗が少なくなります。 見るところをまとめると、帯の幅と当たる位置、持ち手の高さ(介助する人の身長で腰への負担が変わります)、寝たままの姿勢で装着できるか(できないと、着けるたびに持ち上げることになります)、排泄のときに外さずに済むか、洗って乾くか。この6つです。 どの型を使う場合も、外したあとに皮膚が擦れていないか、赤くなっていないかを毎回見てください。 擦れや傷ができたら、そのまま使い続けずに相談してください。 ### 滑り止めマット 素材の名前より、摩擦と厚みを見てください。カタログの素材名は、実際の滑りにくさをあまり説明してくれません。 濡れても滑らないか(水飲み場とトイレのまわりは必ず濡れます)。爪が引っかかるほど目が粗くないか。裏面がずれないか。洗えるか。そして厚すぎないか ── 段差になると、それ自体につまずきます。 部分敷きなら、タイル状のものが扱いやすいことがあります。汚れた一枚だけ替えられるためです。ただし継ぎ目が浮くとつまずくので、置き方は確認してください。 ### スロープ 傾斜を緩くするほど、長くなります。 短くて急なスロープは、後ろ足が弱っている子にはかえって登りにくく、途中で滑ります。ですので、まず「その長さを置ける場所があるか」から考えるのが現実的です。 表面に摩擦があるか(つるつるした板は意味がありません)、幅が体の幅に余裕を持つか、途中で立ち止まっても支えられる強度か。ソファ用と車用では必要な長さが違います。 そして、買ってすぐには登ってくれないこともあります。 最初は平らに置いて上を歩かせるところから慣らす時間が要る、と見込んでおいてください。 ### 靴・足先のカバー 足の甲を擦ってしまう子には選択肢になります。ただし、すでに傷ができている場合は、覆う前に一度診てもらってください。 また、足裏の感覚が変わって歩きにくくなることもあるので、短い時間から試してください。嫌がるようなら、無理に続けないほうがよい種類の道具です。 ## 外の手を借りるとき 家の中の工夫だけでは支えきれなくなることがあります。そのときに外に頼るのは、後退ではありません。 リハビリテーションに対応している動物病院や施設があります。 どんな運動をどれだけ行うかは、その子の病気と進み具合によって変わるため、この記事ではメニューを書きません。 犬猫の診療は獣医師の業務とされており(獣医師法第17条)、運動療法もその判断のうえに組み立てられるものです。担い手についても、たとえばテネシー大学が公式に認定するCCRPというプログラムは、受講できる人を獣医師・愛玩動物看護師・理学療法士と、それぞれの学生に限っています。「そういう選択肢がある」ことだけ、知っておいてください。まずはかかりつけに、対応しているか、していなければ紹介してもらえるかを聞くのが早道です。 通うこと自体が難しくなったら、来てもらう方法があります。 往診に対応する動物病院のほか、介護のサービスとしては、自宅を訪問して介助を行う訪問介護、日中だけ預かるデイケア、介護に対応するペットホテル、最期まで預かる老犬・老猫ホームといった業態があります。それぞれ費用の考え方も選ぶときの確認事項も違うため、詳しくは別のページにまとめています。 家で見続けることだけが正解ではありません。訪問や預かりに託すことも、同じように選んでよい選択肢です。 環境省のパンフレットは、犬と猫の介護についてこう書いています。「一人で抱え込まず、家族と協力したり、かかりつけの動物病院に相談し、無理なく続けられる方法で向き合いましょう」。 ## 最後に 後ろ足が弱ってきたと気づいたとき、「もっと早く気づいていれば」と思うことがあるかもしれません。反対に、「もう歳だから仕方がない」と感じることもあるかもしれません。 ゆっくり進む変化に気づくのは、簡単ではありません。気づけたということは、見ていたということでもあります。そして、AAHAのガイドラインは、飼い主が高齢の犬猫の衰えを「単に歳のせい」で避けられないものと受け取ってしまうことがあると述べ、加齢についての誤解に向き合うことを、診療チームの役割の一つに挙げています。 歳だから何もできない、と決まっているわけではありません。 歩けなくなることは、終わりではありません。支えれば外に出られますし、抱き上げれば日の当たる場所で寝られます。できることの形が変わっても、その子と過ごす時間がなくなるわけではありません。 そして、今日すべてをやる必要はありません。 寝床から水飲み場までの線に、マットを一枚。今日はそれだけでも構いません。 疲れたら休んでください。休むことは、甘えではありません。 --- この記事について: 家の中の工夫に関する記述は、環境省パンフレット「共に生きる 高齢ペットとシルバー世代」の「犬・猫の老化のサイン」「高齢犬・高齢猫の過ごしやすい部屋づくり」および介護の項にもとづいています。「老齢は病気ではない」の記述は AAHA『2023 AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats』(Dhaliwal R ほか, 2023, 学会ガイドライン, J Am Anim Hosp Assoc 59(1):1-21, PMID 36584321)によります。受診の目安と、人用の薬を与えないことについては、当サイトの症状トリアージおよび応急処置の整理(原典: MSD/Merck Veterinary Manual)にもとづく一般的な目安であり、診断ではありません。治療法・薬・投与量については扱っていません。 個々の判断は必ずかかりつけの動物病院にご相談ください。病気ごとの治療費は /medical/ に、介護サービスの業態と費用は別のページにまとめています。→ 編集方針と出典の扱い

このページはまだ獣医師の監修を受けていません。 受診の判断は、かかりつけの獣医師の診察に基づいて決めてください。