犬猫小町INUNEKO KOMACHI
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犬・猫の介護で限界に近いとき

外の手の借り方と、人のほうの相談先

# 介護する側が限界に近いとき まとまって眠れない。出かけられない。終わりが見えない。介護がつらくなるのは、愛情が足りないからではありません。消耗しやすい条件が揃っているからです。外の手の借り方と、人のほうの相談先を書きます。 ## 先に、あなたのほうの話 犬猫の話に入る前に、ひとつだけ先に置きます。 眠れない日が続いている。気分が落ち込んだまま戻らない。食べられない。涙が止まらない。死にたい気持ちが浮かぶ。こうした状態が続いているなら、それは介護のやり方を工夫して解決する範囲を超えています。**人の心身の不調は、人の医療の領分です。** かかりつけの内科でも構いませんし、精神科・心療内科でも構いません。どこに相談すればいいか分からないときのために、厚生労働省が全国共通の電話番号を用意しています。 **こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556**(ナビダイヤル) かけた場所の都道府県・政令指定都市の公的な相談機関につながります。相談に対応する曜日・時間は地域によって異なります。加えて、月曜日から金曜日の18時30分から22時30分(受付は22時まで)は、公益社団法人日本精神保健福祉士協会と公益社団法人日本公認心理師協会が夜間の対応を行っています。 詳しくは後半にもう一度書きます。順番として、ここに置きました。この記事の残りは、いつ読んでも構いません。 ## 限界なのは、愛情が足りないからではない 介護がつらくなったとき、その理由を自分の性格や気持ちの弱さに求めてしまうことがあります。けれど、起きていることを分解すると、**そうなりやすい条件のほうが先に揃っている**ことがわかります。 **眠りが削られます。** 夜鳴きに起こされる、体の向きを変えるために起きる、排泄で起きる。何時に呼ばれるかが決まっていないので、眠りが細切れになります。これが数週間、数か月と続きます。 **外出が難しくなります。** 短い間隔で手が必要になると、予定が立てにくくなります。人と会う機会が減り、減ったことを説明する機会も減ります。 **終わりが見えません。** 治療には「治る」という区切りがありますが、介護には期限がありません。そして先を思おうとすると、その終わりが何を意味するかに行き当たります。**先を考えること自体がつらい**、という状態が起こります。 **手応えが得られにくくなります。** よくなっていくことが前提ではないので、自分のやり方が合っているのかどうかを確かめる材料が少なくなります。 **代わりがいないと感じます。** 家庭の中でも、実際の作業は一人に寄りやすいものです。 **外から見えません。** 介護は家の中で起きます。同居していない人には、何時間分の作業が毎日発生しているのかが伝わりません。 これは、気の持ちようで押し返せる部分ばかりではありません。**条件のほうにも手をつけられると、少し変わることがあります。** ## 獣医療の学会が、介護する人を項目に立てています これは気の持ちようの話ではありません。米国動物病院協会(AAHA)が2023年に出したシニアケアの指針には、「介護者の負担への対応(Managing the Caregiver Burden)」という節があります。診られる側の動物ではなく、**介護する人の状態について、学会のガイドラインが項目を立てている**ということです。 節の冒頭は、こう書かれています。 > シニアの犬と猫の世話には、時間と、忍耐と、お金と、精神的な——そしてしばしば肉体的な——体力が要る。それは介護する人に精神的・身体的な負担をかけ、介護者の負担(caregiver burden)につながりうる。

(2023 AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats・当サイト訳) 同じ節は、負担を重くしうる要因として、犬と猫の行動の変化をめぐる家庭内の対立、経済的な制約、罪悪感、ストレス、パートナーや家族とのケアをめぐる意見の食い違いを挙げています。家族と揉めることも、お金のことを考えてしまうことも、後ろめたさを感じることも、想定された範囲の中にあります。 そのうえで、動物病院の側にできることとして、次のようなことが挙げられています。ペットシッターや一時預かり(respite care)を頼める人のリストを渡すこと。与えやすい薬の選択肢を用意すること(原文では、飲みやすい形に調製する例が挙げられています)。日々のケアを手伝う看護スタッフを充てること。そして場合によっては、医療的な処置を必要不可欠なものに絞ること。 さらに、こう書かれています。 > 飼い主にとって現在および将来必要となりうるケアについて、正直に率直に伝えることが何より重要である。飼い主の限界を認め、その範囲の中で機能する計画を一緒に作ることが、介護者の負担を抑えるうえで最善の方法である。 (同・当サイト訳) 具体例として挙げられているのが、犬が一晩中パンティングして歩き回っている場合の話です。医学的にはもっと対処すべき問題が別にあったとしても、それを先に勧めるのが最善とは限らない。まず睡眠の妨げを和らげるほうが飼い主のストレスを軽くし、その結果として他の医療的な問題に取り組めるようになる、と書かれています。 つまり、「私が眠れていない」は、診察室で言っていい話です。ケアの計画を、あなたが続けられる形に組み直すための材料として扱われます。 ## 外の手の借り方には、順序があります 「誰かに頼る」と考えると、いきなり預け先を探すことになりがちですが、そこに至るまでにいくつか段があります。近いところから順に書きます。すべてを試す必要はありません。いま手がつけられるところから飛ばして構いません。 ### まず、家族のあいだで作業を分ける 「手伝ってほしい」と伝えても動きにくいのは、頼まれた側が何をすればいいか分からないためであることがあります。分けるときは、量ではなく担当で分けたほうが動きます。 時間帯で切る(夜の見守りだけ交代する)、作業で切る(食事は自分、清拭はもう一人)、曜日で切る。「何を、いつ、どのくらい」まで言葉にして渡すと、引き受けるほうも判断が要らなくなります。 離れて暮らす家族には、手を動かす以外の分担があります。通院の予約を取る、消耗品を切らさないよう手配する、費用の管理をする、調べものを引き受ける。同居していなくても持てる担当はあります。 そして、分担できる家庭ばかりではありません。頼める相手がいない、頼んでも動かない、そもそも一人で暮らしている。その場合は、この段で粘らずに次へ進んで構いません。 ### 次に、かかりつけに「自分がもたない」と言う 前の節で見たとおり、飼い主の限界を織り込んでケアの計画を組み直すことは、ガイドラインが最善としているやり方です。遠慮して黙る理由がありません。 伝えるときは、次のあたりが具体的だと話が早くなります。何時ごろに起こされるか。一晩に何回か。いつから続いているか。日中の仕事や自分の生活にどう出ているか。 そのうえで、薬を与えやすい形にできないか、通院の間隔をどう考えるか、夜のことから先に手をつけられないか、といった相談ができます。薬の種類・量・回数を決めるのは獣医師ですし、獣医師が人を診ることはできません。それでも、犬猫側のケアを軽くすることで結果的に負担が下がることはあります。 なお、犬猫の側に気になる変化が出ているとき(急に立てない、食べない状態が続く、呼吸の仕方がいつもと違う、など)は、介護の相談とは切り離して、そのこと自体で早めに連絡してください。受診の目安は /care/ にまとめています。夜に鳴く・歩き回るといった変化そのものへの対処は 夜鳴き・徘徊・昼夜逆転 で、寝返りや体の向きを変えることは 寝ている時間が増えた・寝たきり で、排泄の失敗は 排泄が間に合わない で扱っています。 環境省のパンフレットも、介護についてこう書いています。 > 犬と猫の介護は飼い主にとって重要な問題です。一人で抱え込まず、家族と協力したり、かかりつけの動物病院に相談し、無理なく続けられる方法で向き合いましょう。 (環境省「共に生きる 高齢ペットとシルバー世代」) 「無理なく続けられる方法で」 と書かれています。理想の介護をやり切りましょう、とは書かれていません。 また同じパンフレットは、かかりつけの動物病院について「一時的な預かりができる場合もあります」と記しています。預け先を外に探す前に、いつも行っている病院に聞いてみる、という順番があります。 ### 一時的に預ける、来てもらう 家の外に手を求める場合、選択肢は「預ける」だけではありません。往診に対応する動物病院のほか、介護のサービスとしては、自宅を訪問して介助を行う訪問介護、日中だけ預かるデイケア、介護に対応するペットホテル、最期まで預かる老犬・老猫ホームといった業態があります。 料金の体系も、基本料金に何が含まれるかも、事業者ごとに大きく違います。 そのため、このページでは金額の水準を書きません。費用の考え方は別のページにまとめています。ここでは、業態を問わず問い合わせの段階で確認しておきたいことを挙げます。 登録があるか。 動物を有償で預かる事業には登録が要ります。環境省は、業として動物の保管や譲受飼養を営利目的で行う場合は登録が必要で、登録は事業所ごと・業種ごとに受けるものだと説明しています。遵守すべき基準には標識の掲示も含まれます。掲示があるか、業種の種別が実際にやっていることと合っているかを見ておきます。環境省のパンフレットも、老犬・老猫ホームを「ペットを預かり亡くなるまで世話をしてくれる民間業者(第一種動物取扱業)」と説明したうえで、「よく調べて相談のうえ、利用するようにしましょう」と記しています。 医療とつながっているか。 提携している動物病院や往診の体制があるか。持病があるなら、その子に必要なケアに対応できるか。急に具合が変わったとき、どういう順番で誰に連絡が来るか。 人と時間の体制はどうか。 夜間や早朝に人がいるか。介護の経験があるスタッフか。様子を知らせてもらえる頻度と方法(写真、動画、電話)はどうか。会いに行けるか。 過ごす場所はどうか。 個別のスペースか、ほかの子と一緒か。床は滑らないか。衛生と空調はどうか。外の空気に触れられる動線があるか。 契約はどうなっているか。 状態の報告をどのくらいの頻度で受けられるか。途中でやめるときの解約と返金の決まり。最期まで預ける契約なら、前払いしたお金がどう扱われるか、看取りについてどこまでを事業者が担うか。 費用の内訳が示されるか。 基本料金にどこまで含まれるか。医療費・オムツ・トリミングなどが実費なのか。追加費用はどういうときに発生するのか。金額そのものより、内訳を先に文章で出してもらえるかどうかが、比べるときの土台になります。 短期の預け先については、環境省のパンフレットにこう書かれています。 > 事前に探して、試しに短期間で利用してみましょう。 長期間預けたいときは、早めに相談しましょう。 (ペットホテル・ペットシッターについての記述) これは本来、飼い主自身が体調を崩したり入院したりして世話を続けられなくなる場合に備える、という文脈で書かれたものです。ただ、一度短く試しておくという考え方は、介護が長引いたときにも同じように働きます。初めての預け先にいきなり長く預けるより、日中の短い時間から試すほうが、お互いの様子が分かります。 余力のあるうちのほうが選びやすいのは確かです。ただ、すでに限界に近いところでこれを読んでいる場合でも、遅すぎるということはありません。 いまの状態のまま相談して構いません。 ### 休むのは、甘えではありません 一時的に代わってもらうことには、**respite care(レスパイトケア)**という名前がついています。AAHAの指針が、動物病院から飼い主に渡す資料の中身として挙げているもののひとつです。介護の外側にある例外的な行為ではなく、ケアの構成要素として名前がついているということです。 「預けている間に何かあったら」と考えると、預けにくくなります。その心配は自然なものです。だからこそ、預ける前に短く試しておく、連絡の取り方を決めておく、という段が先にあります。 それから、一日休めば戻る、というものでもありません。まとめて長く休むのが難しくても、短い休みを重ねる形なら組み立てられることがあります。少しのあいだ預けて眠る、というのも休みのうちです。 ## 眠れない・気分が落ち込む状態が続くとき 前半に書いたことを、もう少し詳しく書きます。 介護の工夫でどうにかなる範囲と、そうでない範囲があります。 眠れない。食べられない。気分が落ち込んだ状態から戻らない。何をしても現実感がない。涙が止まらない。死にたい気持ちが浮かぶ。こうした状態が続いているなら、それはやり方の問題ではありません。 相談先は、医療機関です。 精神科・心療内科が専門ですが、どこがよいか分からない、まず身近なところで話したいという場合は、ふだんかかっている内科で相談しても構いません。 公的な電話の窓口があります。 厚生労働省が2008年(平成20年)9月から運用している「こころの健康相談統一ダイヤル」です。 > 全国どこからでも共通の電話番号に電話すれば、電話をかけた所在地の公的な相談機関に接続されます。 (厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」) 0570-064-556(ナビダイヤル)。つながる先は、都道府県・政令指定都市が実施しているこころの健康電話相談などの公的な窓口です。相談に対応する曜日・時間は、都道府県・政令指定都市によって異なります。 加えて2021年(令和3年)1月からは、公益社団法人日本精神保健福祉士協会と公益社団法人日本公認心理師協会が、月曜日から金曜日の18時30分から22時30分(22時まで受付)に夜間の対応を行っています。 ひとつ、区別しておきたいことがあります。ペットロスや介護の悩みに対応するとうたうカウンセリングのサービスがあります。これらは医療とは別のものです。 民間の団体が認定する資格にもとづくものが含まれ、診断や治療にあたるものではありません。話を聞いてもらう場としての価値を否定するものではありませんが、眠れない・気分が落ち込むといった状態が続いているときの行き先は、医療機関です。 順番を入れ替えないでください。 なお、AAHAの指針も、介護者への支援として「メンタルヘルスの専門職、ソーシャルワーカー、カウンセラー、心理職にアクセスするための情報」を飼い主に渡すことを挙げています。人の専門職につなぐことは、獣医療の側でも想定されているということです。 ## 看取りをどう決めるかは、ここでは扱いません 疲れが深くなると、「この子にとって何がいいのか」という問いと、「自分がもうもたない」という状態が、同じ場所で混ざることがあります。 この二つが混ざったまま結論を出さなければならない、ということはありません。 先に、眠れるようにするほうから手をつけて構いません。 看取りをどう考えるか、生活の質をどう見るか、見送ったあとの気持ちをどう扱うかは、/ending/ が受け持っています。このページでは扱いません。 ## 最後に 介護がうまくいっているかどうかを採点する場所ではありません。外に頼った量と、その子への気持ちの量には、関係がありません。 「よくやっていますよ」と言われても、救われないことがあります。言われるほど、まだやれることがあるように思えてしまうこともあります。ですのでここでは、称賛の代わりに、明日少し楽になるほうを書きました。 できなかったことは覚えていて、できたことは記録に残らない。介護には、そうなりやすいところがあります。いまうまくいっていないように感じているとしても、それは経過を正しく測った結果ではないかもしれません。 今日すべてに手をつける必要はありません。ひとつだけ選ぶなら、次に動物病院へ行くときに「自分が眠れていない」と言ってみるところからで構いません。それは犬猫の話としても、ちゃんと診察室で扱われる話です。 そして、あなた自身の眠りや気持ちが戻らない状態が続いているなら、そちらは人の医療に相談してください。 どちらか一方を選ぶ話ではありません。 --- この記事について: 介護者の負担についての記述は、AAHA『2023 AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats』(Dhaliwal R ほか, 2023, 学会ガイドライン, J Am Anim Hosp Assoc 59(1):1-21, PMID 36584321 / DOI 10.5326/JAAHA-MS-7343)本文の「Managing the Caregiver Burden」節にもとづき、原文を確認して要約・訳出しています(訳は当サイトによるものです)。介護の心構えと預け先についての引用は、環境省パンフレット「共に生きる 高齢ペットとシルバー世代」によります。預かりの事業に登録が必要であることは環境省「第一種動物取扱業者の規制」で確認しました。こころの健康相談統一ダイヤルの電話番号・運用の仕組み・夜間対応の時間は、厚生労働省の同名ページで確認したものです(いずれも2026年8月時点)。本記事は、犬猫の治療法・薬・投与量や費用については扱っていません。また、介護サービスの料金の水準も扱っていません。 犬猫の症状で迷うときはかかりつけの動物病院へ、人の心身の不調は医療機関へご相談ください。病気ごとの治療費は 病気と食事の各ページ に、看取りとそのあとについては /ending/ にまとめています。→ 編集方針と出典の扱い

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